東京の港区で修学旅行で公費を負担してシンガポールに行くことが話題となっている。生徒側が自己負担する1人7万円を除き、1人あたりおよそ50万円が公費で賄われる。これに対して賛否が分かれているが、果たして本当に必要なのか?
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海外旅行を経験すれば国際的な感覚を身につけると考えている人も多いでしょう。ただ、海外旅行を経験した人は年々増加しています。では、海外旅行をした人たちは国際的な感覚が身についたでしょうか?確かに、海外を知って現地の人と交流することで外国を知ったつもりになるかもしれません。しかし、本質的には海外に行っただけで国際的な感覚は身につかないでしょう。
例えば、修学旅行で広島や長崎を訪れる小学校や中学校が多くあります。もちろん、事前学習をしているだけでなく、資料館なども訪れています。でも、原子爆弾が投下されたのは何月何日という質問をすると正解する小中高生の方が少ないのが現状です。つまり、広島や長崎に行った、知っていると考えるかもしれませんが実際には何もわかっていない場合があります。「なぜ、原子爆弾が投下されたのか」「原子爆弾投下後はどのような惨状になったのか」「核兵器に対して世界はどのような動きになっているのか」…。このように考えると、シンガポールに団体で行ったところで国際的な感覚を身に着けることになるのでしょうか?修学旅行後のアンケートでは肯定的な意見がでてきます。しかし、本質的に学習効果を期待できない可能性が高いのも事実ではないでしょうか。
これが、私立であれば学校の特色として海外への語学研修をアピール材料として使えば良いのです。正直、海外へ行っている私立中高はありますが、実際に国際的な感覚を身に着けたといえるでしょうか…。ただ、問題なのは多額の税金を投入してまでシンガポールに行くことではないでしょうか?
修学旅行費7万円の自己負担と公費から約50万円が負担された修学旅行であり、総事業費が5億1千万もかかります。そもそも、1人あたりの費用を考えれば、東南アジアであれば2週間以上も滞在できる金額ではないでしょうか(*アメリカに3週間留学した高校生の費用もこれより安い)。つまり、安全面なども考慮されているかもしれませんが、かなり割高になる可能性があります。
では、誰が得するのでしょうか?1つは旅行会社になるでしょう。これだけ大規模で海外になると大手しか対応ができないのでしょうが、かなり強気の予算設定になる可能性があります。ただ、公立なので入札になるかもしれませんが、旅行会社のプランを細かくチェックすることができる人はいるのでしょうか?また、事業費で5億1千万円となっているが誰が担当するのか?普通に考えて、各校の対応でできるとも思えず、だからと言って教育委員会が片手間でできる仕事でもないでしょう。結果、外部団体に委託するのではないでしょうか?そうなった場合に天下りの組織になってしまわないか…。
結果、税金を投入することで生徒はもちろん、儲かる人たちも多くいます。ただ、現場の教員は負担が増大するだけでしょうが…。
国際的な感覚を身に着けるために修学旅行として海外に行く必要性はそもそもあるのでしょうか?確かに、大規模なイベントになるため準備が必要となるのは確かかもしれませんが業者に任せればホテルの手配から、航空券、現地でのプログラム、トラブル時の対応をしてくれます。そのため、現場の先生は気苦労が多くなりますが、簡単とも考えれます。
ただ、ICT教育やタブレットを持たせているような現代においてオンラインで海外の人とつながれば良いのではないでしょうか?また、国内にも多くの国籍が違う人がいます。その様な人々と会話するだけでも国際的な感覚を持てるのではないでしょうか。要は、1回だけの修学旅行に多額の税金を投入するより、継続的に異文化に触れることができるようにしてあげるべきでしょう。1人50万程度の税金負担があるなら40人学級なら1クラスの中学校でもALTを4人以上は常勤で働いてもらうことができます。そちらの方が効果的だと思うのですが…。
そして、日本国内でも自然が豊かな地域もあれば特色がある地域、歴史遺産がある地域など多様な文化があります。他の地域に行けば学ぶべきことも多いでしょう。そもそも、中学の歴史では世界史分野は非常に少ないにもかかわらず、国内のことも知らずに国際感覚は身につくでしょうか。
以上のことを考えれば、わかりやすく地域の特色をつけようと公立中学が海外への修学旅行を企画しただけに思えます。また、私立中学との格差をなくすためにやっているだけに思えます。ただ、それなら修学旅行費の負担をなくすなり、学校の備品を揃えるなり、重労働になている教職員への残業代を支払うなり使い方は他にもあると思います。
ただ、修学旅行は生徒からすれば思い出作りの場としか考えていないため、そこに税金をかけるのではなく、別の方法で税金を投入した方が良いのではと感じます。